1位 70歳代 〜判断ができるうちになんとかしたい〜
70歳になると国民健康保険の加入者には「高齢受給者証」が交付され、75歳になると、全員が「後期高齢者医療制度」の対象になります。肉体的にも精神的にも元気な人も、社会的には否応なく高齢者の仲間入りをしたことを自覚します。
自分自身の健康の不安が身近になり、これからの生活やもしもの時のことが気がかりになり、自分の抱えている不安や悩みを、「まだ元気でしっかり判断ができるうちになんとかしておきたい」との思いが感じられる相談が多く寄せられました。
入院が必要になった時の保証人をどうするか。疎遠になっている子供との仲を修復するには。今の住居を処分して老人ホームに入りたい。1軒家からマンションへの住み替え。成年後見制度を利用するには。自分の遺産相続について等々、他の年代と同様、よせられる相談の内容はさまざまですが、自分自身の今後の身の振り方について、積極的にアドバイスや情報を求める姿勢を感じました。
2位 60歳代 〜不安や悩みが具体的になる年代〜
第2の人生を迎え、今まで漠然と抱えていた不安や悩みが顕在化します。
親が高齢になり、介護がはじまります。
「離職して、親の面倒を見ているが、親の年金だけで生活が苦しい。兄弟に援助を求めても協力してくれない」「親の介護をしているが、失業した弟が親の年金をあてにして転がり込んできた」など、肉体的な負担に留まらず、経済的な負担が付随しがちな介護の問題を抱えた人の相談が多くあります。
また、親の遺産相続を経験する人も多く、相続に関する基本的な知識の問い合わせが多数を占める中で、「兄弟3人いるが、親の介護を自分がしている。将来、そのような事実は相続に反映されるのか」と介護がらみの問合せもありました。
「熟年離婚」という言葉が頻繁に使われるようになって、かれこれ20年になります。子供達が独立をしたり、親を見送った後に迎えた第2の人生をやり直したいという相談は、当時から途切れることなく寄せられていますが、今回も、夫との長年の不和を精算して、新しい生活を考えたいという相談を受けました。
「熟年離婚」の相談は、大半がこの年代の女性からですが、中には、突然の離婚に戸惑う男性からの電話も少数ながら含まれています。
3位 80歳代 〜相談者にも高齢化の現象が見られます〜
超高齢社会の中で、この年代の相談者が増えています。
遺言相続の相談を筆頭に、成年後見制度や終活について、高齢になってもきちんとした情報を得たいという前向きな姿勢がうかがわれる相談が多くあります。身近なところで情報を得る手段を見つけることができないケースも少なくなく、高齢者への広報活動の充実を図る必要性を感じます。
身体障害を抱えながら、これまで公的援助に頼らずに頑張ってきたが無理になったと限界を訴える夫婦。30年前に家庭が崩壊して以後、会っていない息子に会いたいと願う病弱な父親。引きこもりの45歳の息子の将来を心配する親など、高齢になっても、今なお深刻な悩みを抱えている人たちの相談も後を絶ちません。
また、長年の一人暮らしの孤独を訴えたり、経済的なゆとりがなく、潤いのない生活を嘆いたりと、答えを求めているのではなく、ともかく傾聴してほしいという電話も目立ちました。
1位 遺言相続 〜家族関係が複雑になってきて〜
以前より女性からの相談が増えましたが、全般的に基礎知識がない方が多いです。
最近は結婚、再婚、離婚、別居、養子縁組、連れ子等、家族間の人間関係が複雑化してきて、相続も簡単にはいかないようです。法律では相続権がない先夫との子供や、面倒を見てくれている姪に相続をさせたい等、色々な思惑を感じる相談が目立ってきました。相続開始前に同居している兄弟がすでに親の預貯金を使い果たしてしまったケースも少なくありません。
2位 家族親族 〜二世帯で住むことには慎重に〜
最近、TVコマーシャルで業者が二世帯住宅に住むことの良さばかりを宣伝していますが、実際には毎回悩ましい相談が寄せられています。業者は親子ローンになるので積極的に進めていますが、嫁と姑、親と子等にトラブルが数年経って起こり、どちらかが出ていくケースが多いので、慎重に考えて進めるのが良いと思います。今回も親が全財産をつぎこんで住宅建設に寄与したのですが、こじれてきて、自分が出て行く破目になり、借家の家賃も払えない状況に陥っている事例がありました。
その他では子供がリストラにあったり、離婚して実家に戻り、親の年金を当てにして暮らしているケースが増えており、親亡きあとどうして暮らすのかを案じる相談も毎回あります。意外と多いのは子供が何年も行方不明になっていて、相続が生じた途端、慌てて探す方法はないかと問い合わせてくるケースです。親子関係もここまで来たのかと驚かされます。
3位 住居 〜先祖が残した家、田畑、山等の処分に困惑〜
親や祖父母が残した家や田畑、山等を相続で処分しなくてはならないのですが、なかなか売れなくて何年も放置している場合が多く、放棄したいという相談もあります。最近空き家問題が顕在化していますが、売りにくい土地等を相続して固定資産税もばかにならず困惑している相談者が確かに増えています。
その他、息子に家をローンで建てたがリストラされローンが払えなくなり、相談者が払っているが負担が重く困っている等、不況の影響を受けている人が目立ちます。
4位 経済 〜「老人の貧困」が増加の一途を辿っている〜
最近、「老人の貧困」を意味する「下流社会」「下流老人」という言葉をよく耳にします。「社会提言」で深く掘り下げて述べますが、生活保護費より少ない年金で暮らしている人が実に多いです。バブル崩壊以降経済格差が広がっています。夫が無年金で妻の年金で暮らしていて生活が苦しいと訴える人もいます。
5位 健康医療 〜健康でも一人暮らしになると先行きの自信がなくなる〜
日本人総じて「健康おたく」の時代、特にシニアの健康に対する関心は高いと思います。夫婦世帯で暮らしていてもパートナーが亡くなった途端、一人暮らし世帯となります。やはり一番心配になるのは健康です。自信がなくなると様々な不安が頭をよぎります。
加齢が進むと病気も複数になり、医療費を少ない年金のなかで支出するのは大きな負担となり生活苦に陥っていると嘆く人もいます。
「夫婦世帯」「一人世帯」「家族同居世帯」の暮らし方で相談内容の相違を検証しました。
「夫婦世帯」 〜家庭内別居や熟年離婚も〜
「自分の遺産はすべて妻に渡したい。遺言書を書いた方がいいか」
「子供が二人いるが、財産は全部妻に相続させたい。その方法を教えてほしい」
子供があるなしにかかわらず、妻に全額相続させたいという相談が、毎回必ず複数件寄せられます。ほとんどの相談者が80歳以上ですが、長年苦楽を共にしてきた妻の行く末を思う気持ちを感じます。
一方で、表面的には夫婦で暮らしていても、お互いが歩み寄れず家庭内別居をしていたり、子育てを終えて、第2の人生を踏み出す機会に、夫との不和を精算して別々の人生を歩きたいと考えている妻がいます。
「一人世帯」 〜今は元気でも、もしもの時が不安〜
身内がいなかったり、身内がいても疎遠になっている一人暮らしの高齢者は、今は元気でも将来に人一倍不安を抱えて暮らしています。「自分が動けなくなったらと考えると不安が募る」「入院が必要な時、保証人をどのようにして選んだらよいか」「夫を亡くし、親類も遠方。住宅や入院時の保証人を見つける方法を教えてほしい」等々。ますます人のつながりが希薄になっていくこれからの社会では、国や地域のサポートが必要なのは言うまでもありませんが、日ごろから一人一人がつながる努力をすることも大切です。
親の介護が終わったり、定年退職をした一人暮らしの人から、身軽になったので、地域貢献をする場所やボランティア活動の場を知りたいという前向きな電話がありました。
相談者たちの生きがい探しの手伝いも、電話相談の大きな役割の一つです。
「家族同居世帯」 〜同じ家に暮らしていても会話がない〜
「個」が重視され、家族のきずなが弱くなっているといわれていますが、一つ屋根の下に暮らしていても、離れて暮らす家族同様に、家族のつながりが希薄になっています。
「引きこもりの息子とフリーターの娘がいる。何とかしなくては思っているが、子供たちと会話がない。夫はほっておけといって取り合ってくれない。みんながばらばらで悲しい」「不動産の処分について息子と相談したいが、忙しくて相談にのってくれない」など、会話がないため、解決の糸口がみつからないトラブルが増えています。
その他、ギャンブルと女遊びがひどく、お金が無くなると罵声を浴びせる息子に家を出て行ってほしいと願う母親。同居している娘婿との折り合いが悪く、家を出るように言い渡されて途方に暮れる70歳代の男性。娘が鬱になり、妻がイライラして自分に当たる。諭すと逆上するのでなす術がないと嘆く75歳の男性など、種々雑多な家族の中のトラブルの相談がありました。
【社 会 提 言】
【1】
〜誰にでも起こりうる老人の貧困〜
貧困を止める方策を
最近「下流老人」「下流社会」という言葉を耳にすることが多くなりました。これは「老人の貧困」を指す言葉で、生活保護基準以下で暮らしている人のことを指しています。
電話相談に寄せられた事例をもとに、老人が貧困になってしまうケースを挙げてみます。
- バブル崩壊後、不況が長引くにつれ年収が減ったり、経営不振でリストラされたり、非正規雇用者となる人が増えました。これらの人々が退職した場合には充分な年金を手にできません。
- 年金生活者の子供が問題となるケースも増えてきました。不況が20年近く続くなか、非正規労働者が正規労働者の4割近くになり、リストラに遭う人も多く、フリーターも増え、自分の生活が精一杯で、子供は親をみるどころか親を当てにして、援助してもらっている事例も目立ち、年金生活者の生活が脅かされています。
- 最近は婚期が遅くなってきている傾向のなか、正規社員であっても長期の住宅ローン(30年〜40年)を抱えている人が返済が終わらないうちに退職となり、子供の養育費も支払い続ける状況下にあって、貯蓄するところまではいきません。こういう人々が年金生活に入った場合、当然生活は苦しくなります。
- 今は共稼ぎが普通になっていますが、70歳以上の人の現役時代は政府自体が「夫は企業戦士として外で働き、妻は家を守る。」いうパターンで年金を設定していました。それゆえ妻で厚生年金を受給している人はわずかで夫の年金とわずかな自分の老齢年金で暮らす人が大半です。夫亡きあと遺族年金(夫支給額の約4分の3)だけとなり非常に生活が苦しくなります。
- 熟年離婚、病気、介護が起因となり貯蓄を崩さなければならない老人もいます。20年くらい前までは退職後の人生を「余生」と呼び、積極的に活動するというのではなく、孫の面倒を見たり、家の留守番をしたりして暮らしていました。仕送りもあり、時折子供たちからお小遣いをもらい、近くの温泉に出かけるのを楽しんでいました。そのうちに寿命となり75歳前後で人生を終えるのが一般的でしたが、平均寿命が80歳を超えるようになり、事情は変わりました。
- 2000年から開始された「介護保険制度」は高齢者にとって、大変有難い制度ですが、出費の面では大きな負担の1つになっているのも事実です。しかも保険料は年々上がっていますが、頼みの年金額は反対に減っています。
上に掲げたように、高齢者の貧困を招く要因は様々ですが、世界一の長寿国と言われるわが国の高齢者の貧困率は留まることを知りません。
このたび、政府は誰もが活躍できる「1億総活躍社会」を目指して、「強い経済」「子育て支援」「社会保障」を「新しい3本の矢」とする政策を提言しました。
電話相談には、介護離職をした高齢者から、「介護が終り再就職を希望しているが仕事が見つからない」「高齢のためリストされたが次の働き口がない」といった相談が続いています。
「1億総活躍社会」の実現には、まずは高齢者の貧困を打破するための職場の確保が必須です。
また、生活保護基準以下で生活している人には、憲法で保障された最低限の生活が送れるように、生活保護が最後のセーフティネットとして機能しなければなりません。そして、そのためには、行政だけにとどまらず、マスコミや地域社会などが、生活保護を受けやすく、わかりやすく広報をすることも大切です。
毎年平均寿命が延びている日本では、退職後の20〜30年間を「余生」と呼ぶにはあまりにも長過ぎます。
最近のシニアは退職後もとてもアクティブで旅行、食事会、趣味も持ち、ボランティア活動も盛んです。
少子化も反映しているのでしょうか、孫の面倒も昔以上に良くみる傾向にあり、入学祝金等なども結構な額になります。高齢化で葬祭費も大変です。退職後の暮らしは、現役時代に考えていた以上に出費が嵩みます。
現役時代からしっかり人生設計を立てて臨まないと思い通りの老後の暮らしが難しくなるどころか、貧困に陥る可能性も潜んでいます。
これからの若い人たちには、45歳を人生の折り返し時点と捉えて、退職後どう過ごしたいのか様々な場合を想定し、老後の生活に向けてソフトランディングし始めることを強くお勧めします。
【2】
〜空き家の所有者も困っています〜
求められる地方自治体の支援
平成25年の総務省の統計では、空き家数は820万戸を超え,過去最高の数字になりました。空き家の多くは、周りに悪影響を及ぼす廃屋のため、今年5月、老朽化した空き家の撤去、あるいは空き家の活用を進めるための特別措置法が制定されました。
今回の電話相談には、そうした空き家を所有する高齢者からの相談が6都市の協会にまんべんなく寄せられました。
その大半が親から相続した家屋敷に関しての相談で、高齢になり手入れができなくなった。遠方のため行かれない。隣近所に迷惑をかけているのが心苦しい。固定資産税が重荷と訴えています。
相談者たちは、そうした状況にただ手をこまねいているわけではなく、売却を試みたり、何か利用法を探したりしていますが、買い手が見つからなかったり、廃屋の解体費用が工面できなかったり、利用法がみつからないため、処分ができず困っています。
こうした空き家処分に対して、自治体によっては、既に国が制定した基本方針に従って、支援策を講じているところもありますが、核となる全国の市町村が早急にしっかり空き家対策に取り組み、空き家の所有者に対しての支援策を打ち出すと共に、相談をする窓口を設け、そのPRにも努めることが必要です。
【参考】
*財団法人シニアルネサンス財団
(財)シニア ルネサンス財団のホームページ http://www.sla.or.jpをご覧ください。
*シニアライフアドバイザー(SLA)
(財)シニアルネサンス財団(1992年設立、内閣府主管)が中高年齢者総合生活相談員の養成事業におけるシニアライフアドバイザー養成講座を修了し、その資格審査に合格した者です。
シニアライフアドバイザー(SLA)は人生90年時代、定年退職後・子育て終了後に迎えるシニアライフを健康で経済的困難がなく、かつ不安やトラブルもなく、生き甲斐をもって幸せに生きられるようにアドバイスしたり、シニアと共に問題解決を図ることをモットーとしてボランティア活動を行っています。
全国には、2,600名のシニアライフアドバイザー(SLA)がいます。(2010年10月現在)
*中部シニアライフアドバイザー協会
中部地区在住のシニアライフアドバイザー(SLA)で構成している組織です。
定年退職をしたり子育て終えた後に迎えるセカンドライフを、生き生きと生きがいを持って暮らすために、セミナーや講演会を開いたり、また、電話相談をはじめとする相談活動を開設して、同じセカンドライフを歩いているものの立場から、アドバイスをするという活動を、おもにボランティアで行っています。
中部シニアライフアドバイザー協会 URL:http://chubusla.web.fc2.com/
*全国シニアライフアドバイザー協会
全国7都市にあるシニアライフアドバイザー協会が、全国一斉特設電話相談「シニアの悩み110番」開設などの活動を、連携をとって実施するために設立された組織です。
全国7都市のシニアライフアドバイザー協会は次のとおりです。
東北シニアライフアドバイザー協会(仙台)
NPO法人関東シニアライフアドバイザー協会(東京)
中部シニアライフアドバイザー協会(名古屋)
関西シニアライフアドバイザー協会(大阪)
東中国シニアライフアドバイザー協会(福山)
NPO法人中国シニアライフアドバイザー協会(広島)
九州シニアライフアドバイザー協会(福岡)